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若者側に責任を押し付けたがる社会風潮(後編)

夏のピークが過ぎ、連日の熱波も和らぎ始めている。
職場の壁に吊るされたカレンダーは、海洋の写真がプリントされたページを、あと数日で引き剥がされつつあった。
今朝から曇り空が続いているおかげもあって、扇風機の唸り声にわずらわされる事も、襟元が汗で濡れそぼる事もなくなっていた。

十年以上前のあの日は……
どれくらいの暑さだっただろうか?どれくらいスーツの襟元を湿らせていただろうか?
十年以上前……新卒市場の舞台から大手の求人が一通り幕を引いた頃、私は大阪に向かう電車の中で揺らいでいた。
二万円以下で購入したリクルートスーツに、ようやく慣れ始めた首元のネクタイ。整髪料を付けぬ髪は、電車の天井で唸る扇風機に乱されるに任せ、手には薄っぺらい安物の鞄を後生大事に提(さ)げていた。
中には大学の講義で使用している筆記用具一式とノート。そして求人案内の書類だけが無駄に沢山入っていた。
その時の自分の出で立ちを一言で言い表すならば「ダサイ」に尽きる。だが、就活生の不慣れな背広姿なんて大概そんなものだったろう。

空いている方の手で読書していた記憶もあるが、その本がなんだったのかは良く覚えていない。
ただ、その滑稽な内容に、電車の人ごみの中で笑ってしまわぬよう堪えていた事は良く覚えている。

そのダサい就活生が、何度目かの面接に向かっていたのは、社員数3名の零細企業だった。業種はIT。社名は忘れた。
春の大手企業の求人が散り尽くせば、学生たちは、次に芽吹く夏の中小企業の求人を求めてさまよう。それも逃した者は、秋の寂れた新卒市場の森で、零細企業やブラック求人を掘り当てる作業が待っている。

だが、季節はまだ初夏だった。いくら不況とはいえ、その時期に零細企業の求人を集中的に回る私のような学生は、少数派だった。
大手の大樹も、中小の森にも執着せず、零細企業の野畑を好んで歩んでいた理由は、小さな会社ならば簡単に採用の花を詰めるだろうという、素人なりの計算があった為だ。

「出来るだけ小さな会社」「でも、将来性のある分野」

この二点が、私の応募基準だった。
当時は、不況の氷河の底からITバブルの噴泉が立ち上るさなか。IT業界ならば、小さな芽も直ぐに大樹に育つだろうと思っていた。

その零細企業の面接場所は、小さなビルの二階、仕事机を隅にどかしただけの狭いオフィスだった。待合場所は、そのオフィスの前の廊下。
面接官は二人。採用人数は一人。その日の応募者は私を含めて三人だけだった。

最初に面接を受けた私は、五分もせずに廊下に戻ってきた。
己の浅はかさを思い知らされ、羞恥心で顔を真っ赤にした私は、廊下のパイプ椅子に腰掛けると、顔を伏せたまま残り二人を仰いだ。
この二人は、面接官の“あの質問”に何と答えるのだろうか?
次に呼び出され、やはり直ぐに戻ってきた二人は、複雑な顔をしていた。
どうやら私同様、“あの質問”に答えられなかったらしい。
私たち三人は、最後に一緒に面接室に呼び戻されると、困り顔の面接官に告げられた。

「どうも皆さん、趣旨違いのようです・・・・残念ながら全員不採用とさせて頂きます」

面接を受けたその場で不採用の通知を受けたのは、これが初めてだった。

なぜ、一人も採用されなかったのか?
それは、面接官の質問に私たちは誰も答えられなかった為だ。
面接官は、私たちに「C言語はどの程度できるのか」問うたのだ。
ITと無縁の生活を送っている学生が大多数だった時代だ。三人とも「C言語」なんて知らなかった。

私たちの父の世代も、一回り上のバブル世代も、大部分が、新卒の時に知識ゼロの状態で採用され、一から企業内で教育を施された。
その為、私たちも採用後に一から教育してもらえるのだと思い込んでいた。だが、中小・零細企業を中心に回る内に、一つの事実に気づかされた。
それは、学部やスキルを問わずに採用し、一から育ててくれるのは大手・中堅企業だけだという事だ。

人材教育に投資する余裕がない中小・零細企業は、出身学部とスキルに執着する傾向が高かったのだ。
製造業の中小企業は求人が余っていると聞き、面接におもむいても、「図面は引けるか」だの「NC旋盤は使えるか」だの、スキルを求められる事がしばしばあった。
中小企業博におもむき企業説明のブースに着いても、歓迎されるのは特定の学部出身者や特定のスキルの持ち主だという事を理解するのに時間は掛からなかった。
企業ブースで席に着き、直ぐに「これはダメだ」と気づき席を立つ羽目になる学生は、私を含めて多数いた。

“新卒は未経験者・スキルゼロで当然”“それを一から育てるのが企業の仕事”という常識は、バブル崩壊以降、既に非常識に変わりつつあったのだ。
(好景気の年に限って、その常識は復活するが)

当時の学生の多くは、その事実を知らぬまま就活を始めていた。世間もその事を知らず「中小企業を選べば直ぐに就職できる」などという迷信がのさばっていた。
そして、それは今もなお変わっていない。「学生が就職できないのは大手を狙うからだ」という批評が、TV、経済学者のブログ、ネット上の各所で繰り返されている。
私のブログには「中小企業を中心に回っていますが、いまだ内定が採れない」と嘆く学生たちの投稿が幾度か寄せられている。
学生も世間も、十年前と何ら変わっちゃいない。

この後編では、今期の就職氷河期の猛威の中、大々的に流布されている氷河の上の二大蜃気楼(農業・介護に需要があるという主張)について、反論させていただく。

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